金融・金銭教育
研究校のしおり

1.はじめに

私たちは生活をしていくうえで、お金とは切っても切れない関係にあります。それだけに児童生徒に早いうちからお金とのつきあい方をしっかりと身に付けてもらうことは、時代のいかんに関わらず基本的でかつ大事なことです。最近では金融経済環境の大きな変化などにともなって、「お金を使う」、「お金を貯める(ないし運用する)」、「お金を借りる」、「仕事を通してお金を得る」というそれぞれの場面で様々なリスクやトラブルに直面することも少なくない時代になってきました。

さらに、新しい学習指導要領では、金融教育に関する記載が拡充されています。こうした事情を背景に、保護者や学校の先生方の間で、金融教育への関心が高まっているのではないかと思います。

金融広報中央委員会と各地の金融広報委員会は、文部科学省および各地教育委員会の協力の下、これまでも様々な形で学校における金融教育を支援してきていますが、上で述べた事情を踏まえ一層この分野に力を入れていきたいと考えています。その際、学校教育の中で金融教育の要素を取り込んだ授業をこれまで以上に幅広く行って頂くこと、そして、そのことを通じて、児童生徒の皆さんに社会人になっても役立つような知識や知恵をしっかりと身に付けて頂くことを願っています。

金融広報中央委員会および各地の金融広報委員会では、こうした目的の下、教材の提供、先生方を対象とするセミナーの開催などを行っているほか、金融教育研究校・金銭教育研究校・金融教育研究グループの委嘱を行っています。

以下ではこうした研究校等の制度についてご説明します。

2.「金融教育」とは

「金融教育」は、お金や金融のはたらきを理解し、それを通じて自分の暮らしや社会について深く考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に行動できる態度を養う教育をさします。具体的な教育内容として、以下の4つの分野があげられます。

  1. 生活設計・家計管理に関する分野
  2. 金融や経済の仕組みに関する分野
  3. 消費生活・金融トラブル防止に関する分野
  4. キャリア教育に関する分野

「金融教育」のうち、特に金銭や物に対する健全な価値観の養成に力点をおいた教育を「金銭教育」とよんでいます。

「金融教育」および「金銭教育」のいずれについても、公民科、社会科、生活科、家庭科、総合的な探究の時間をはじめとする様々な教科等で取り上げることができます。

3.金融教育研究校、金銭教育研究校とは

生徒、児童、幼児の発達段階に応じた金融教育ないし金銭教育の研究・実践を支援するために、都道府県金融広報委員会が委嘱する研究校です。研究校のうち、特別支援学校(幼稚部、小学部、中学部)、中等教育学校(前期課程)、義務教育学校、中学校、小学校、幼稚園、保育所、認定こども園において金銭や物に対する健全な価値観の養成に力点をおいた教育および研究を行うものを「金銭教育研究校」とします。また、主として高等専門学校、特別支援学校(小学部、中学部、高等部)、中等教育学校、高等学校、高等専修学校、義務教育学校、中学校、小学校において上記2.であげた4つの分野(あるいはこの中のいくつかの分野)に取り組むものを「金融教育研究校」とします。委嘱に際し、力点をおく教育および研究目的に応じて、いずれかを選択して頂きます。

このほか、金融教育の研究・実践に取り組む教師の学校横断的なグループを「金融教育研究グループ」として委嘱する制度もあります。その詳細については、都道府県金融広報委員会にお問い合せください。

4.研究校に対する支援

(1)教育研究費の助成

都道府県金融広報委員会より教育研究費として、1年間につき、①幼稚園、保育所、認定こども園、特別支援学校(幼稚部)は15万円(上限)、②小学校以上は30万円(上限)を支給します。

  • なお、教育研究費の使途については、資金使途別に利用可能額の上限を設けています。その詳細については、都道府県金融広報委員会にお問い合わせください。
  • 年度途中からの委嘱の場合、当該年度における教育研究費については、「15万円または30万円÷12×年度末までの委嘱月数」により計算される金額を上限に支給します。

(2)資料の提供

「金融教育」ならびに「金銭教育」に関する資料(「知るぽるとLibrary」参照)を提供します。

(3)講師の派遣

「金融教育」ないし「金銭教育」を専門分野とする講師を無償で派遣します。

  • 原則として、金融広報中央委員会が委嘱する金融広報アドバイザーのうち、研究校の所在する都道府県に在住の者を、都道府県金融広報委員会が派遣します。

(4)研究・実践計画立案に関する支援

都道府県金融広報委員会事務局員および金融広報アドバイザーが随時相談に応じます。

5.研究校への委嘱内容

(1)「金融教育」ないし「金銭教育」の研究・実践

研究・実践に当たっては、金融広報中央委員会が発行する以下の資料を参考としつつ、各研究校の特色を活かした研究・実践を行って頂きたいと考えています。

  • 『金融教育プログラム(全面改訂版)-社会の中で生きる力を育む授業とは-』
  • 『はじめての金融教育-ワークシート付き入門ガイドと実践事例集-』
  • 『金融教育ガイドブック-学校における実践事例集-』

(2)研究・実践の報告

具体的には、次の2点をお願いします。

  1. 委嘱期間終了時に、都道府県金融広報委員会に報告書を2部提出すること
    • この報告書には所定の書式はありませんが、①授業の年間スケジュール、②研究主題(テーマ)、③研究目標、④研究計画、⑤実施教科・実施学年、⑥金融教育プログラム「学校における金融教育の年齢層別目標」に掲げる4分野の該当する項目、⑦利用教材・資料、⑧指導方法・指導内容、⑨児童・生徒や保護者の反応、について極力記載をお願いします。このうち、⑧指導方法・指導内容、⑨児童・生徒や保護者の反応については、研究成果の共有を図るうえで重要なポイントとなることから、記載例(BOX参照)なども参考にしながら具体的かつわかりやすく記載していただくようお願いします。
    • この報告書のうち1部は、都道府県金融広報委員会より金融広報中央委員会に提出されます。金融広報中央委員会に提出された報告書は、都道府県金融広報委員会のみ閲覧可能なサイトで共有します。
    • 報告書は、作成した研究校の同意を得られる範囲で、所管する都道府県金融広報委員会を通じて他の研究校と共有することがあります。また、対外公表に同意いただいた報告書については、金融広報中央委員会ホームページに掲載いたします。

      【BOX】記載例(1)(高校のケース)

      ⑧指導方法・指導内容

      • 「家庭基礎」と「公共」によるクロスカリキュラムとし、教科教員による校内研究会(グループやチーム)を立ち上げ、授業内容や利用教材を検討。授業は、生徒がイメージしやすい「家庭基礎」を導入編、「公共」を発展編とし、全15時間(それぞれ、9時間、6時間)の構成とした。1学期の「家庭基礎」では、アクティブラーニングを意識し、ペア学習で進学費用や生活費を調べたうえで、グループ学習による意見交換で資金管理や生活設計の考えを深めさせた。そのうえで、2学期の「公共」で、地元の小売業の代金決済方法やポイントサービスなどをグループ毎に分析。「家庭基礎」と「公共」での学習を連関させることで、金融が身近な存在であることを理解させた。

      ⑨生徒や保護者の反応※

      • 生徒は「家庭基礎」で学んだ資金管理や生活設計の意味を、「公共」で分析した地元企業の視点も踏まえながら、自らの問題として捉えるようになった。「家庭基礎」でのグループ発表では、当初、生徒の多くが、「お金の管理や生活設計を意識したことがない」、「お金の勉強と言われてもイメージできない」と発言していたが、最終的には「お金の流れや資金管理の重要性を理解できた」、「スマホ決済など自分の普段の生活を金融機関が支えていることが分かった」などと発言しており、自分たちの暮らしを支える金融の重要性を理解できたように思われる。

      【BOX】記載例(2)(小学校のケース)

      ⑧指導方法・指導

      • 児童・保護者にアンケートを実施したところ、児童の9割がお小遣制であるが、保護者は細かな金銭指導を行っていないことが判明。児童が金銭管理の面で自らの考えを持ち、主体的に行動できるようにすることを目標に、「家庭科」および「総合的な学習」の時間で多面的に学習する計画とした。「家庭科」では5種類の文具から欲しいものを選択させ、選んだ理由と必要性についてグループ討議を行った。「総合的な学習」の時間では、特産の果実栽培と収穫後の販売実習により、勤労の尊さと対価として得られるお金の大切さを学習させた。

      ⑨児童や保護者の反応※

      • 児童は、果実栽培の大変さや販売する際の値付けなどを経験することで、勤労やお金の尊さを実感できるようになった。児童は、「欲しいものと必要なものを考えながら買い物する」、「お金を得る苦労が分かったのでお金は大切につかいたい」と語るなど、ニーズとウォンツを理解・把握し自らの考えを持ち主体的に行動できるとした教育目標が達成できたように思われる。保護者からは、学校でお金の勉強をした後は「買い物の際慎重に商品を選ぶなど、お金の大切さを理解したようだ」との声が聞かれている。
      • 例えば、授業の前後にアンケート調査を行っており、児童・生徒や保護者の反応の変化などを定量的に示すことができる場合は、そうした数値もお示しください。
    • 金融広報中央委員会では、「金融教育に関する実践報告コンクール」(主催:金融広報中央委員会、後援:金融庁、文部科学省、日本銀行)を開催しております。報告書の作成と併せて、上記コンクールへの応募をご検討ください。詳細は金融広報員会ホームページをご覧ください。
      https://www.shiruporuto.jp/education/contest/container/concours_kyoin/
  2. 委嘱期間中に、都道府県金融広報委員会が主催する「金融・金銭教育協議会」等(金融教育協議会、金銭教育協議会、金融教育公開授業を含む)において実践報告を行うこと
    • 金融・金銭教育協議会は、金融・金銭教育の普及とその指導者の育成強化を図るため、複数の研究校、都道府県内の教育関係者、金融広報アドバイザー、金融広報委員会事務局員が集まり、金融・金銭教育を実践・研究する上での諸問題を研究協議するものです。通常、都道府県金融広報委員会が主催者となり9月~12月頃に開催します。
    • 金融教育公開授業は、金融・金銭教育の普及と学校における金融教育の必要性の理解促進を図るため、研究校の委嘱期間中における研究・実践内容を教育関係者や保護者などに授業の公開を通して広く紹介するものです。開催にあたっては、開催希望や授業の年間計画等を踏まえながら、研究校と都道府県金融広報委員会が協議のうえ、開催日、開催方法等を決定します。

(3)教育研究費の支出報告等

  1. 年度毎に教育研究費の支出報告書を作成頂き、支出の事実を確認できる領収書等を添付のうえ、都道府県金融広報委員会にご提出頂きます。
  2. 教育研究費のうち、実践指導費の支出時にご提出頂く「実践指導計画書」については、都道府県金融広報委員会のみ閲覧可能なサイトにより全ての都道府県金融広報委員会との間で共有します。
  3. 「実践指導計画書」は、作成した研究校の同意を得られる範囲で、所管する都道府県金融広報委員会を通じて他の研究校と共有することがあります。

6.委嘱期間

原則として年度初(4月)から翌々年度末(3月末)までの2年間とします。ただし、研究・実践に支障ない場合には、年度途中からの委嘱ならびに2年未満の委嘱も認めます。

7.委嘱に関する手続き等

(1)委嘱先の選定

① 教育委員会の推薦、② 都道府県金融広報委員会による公募、③ 都道府県金融広報委員会の依頼のいずれかによります。

(2)委嘱手続き

  1. 都道府県金融広報委員会による説明ならびに依頼による委嘱先確定(秋から年度末)
  2. 都道府県金融広報委員会から研究校への委嘱状の交付(年度初)

(3)教育研究費の交付と支出報告書の提出

  1. 教育研究費の交付(支出が必要になった都度、研究校から都道府県金融広報委員会に対して事前に使途および必要額を申請)
  2. 教育研究費の支出報告書の提出(翌年度5月頃まで)

(4)研究・実践報告の提出

研究・実践内容に関する報告書の提出(翌年度5月頃まで)